「人種や民族関係なく、その人の最高に格好良い表情を撮りたい」。気鋭の写真家・ヨシダナギ氏講演会をレポート!【バンタンデザイン研究所】
フォトグラファー・ヨシダナギ講師をお招きしました。
3rd作品集「DRAG QUEEN」、BEST作品集「HEROES」、エッセイ「ヨシダナギの拾われる力」を出版。
2017年には日経ビジネス誌で「次代を創る100人」へ選出され、
同年、講談社出版文化賞 写真賞を受賞するなど名実ともに日本を代表する写真家に。
「アフリカ人からフォトグラファーという職業をもらいました。」と飄々と語るヨシダ講師。
その真意とは?今回は、マネージャーさんとの対話形式で行われた講演会をレポートします!
ここでしか聞けない貴重なエピソードが満載です。
――――― 写真を撮るまでの経緯について教えてください。
ヨシダ講師「イラストレーターをしていました。でも、スランプに陥ってしまって。
どうしたらスランプから抜けられるかを考えていたところ、
『新しい世界を見るとカルチャーショックを受けて、見える世界が広がる』という話を聞き、海外旅行に出かけました。」
――――― どこに行きましたか?
「フィリピン、タイでした。スラム街も行きましたが、特にカルチャーショックは受けませんでした。」
――――― アフリカに行ったのはいつですか?
「23歳のときです。エジプトとエチオピアに行きました。」
――――― どのような形で行きましたか?
「人と行動するのは得意ではないので
旅行会社に連絡をして『できるだけたくさんの少数民族が見られるツアーを組んでください』と相談しました。
実際に会ってみると、彼らはものすごく格好よかったです!」
――――― 会った時どんな反応をされましたか?
「挨拶よりも先に『マネー』って言われました。私は、初対面の人にいきなり金をくれなんて言えないからすごいなと思ったんです。
もうひとつ分かったことがあって。私はそれまで『少数民族』に惹かれていると思っていましたが、
肌の黒い人にとても魅了されているんだな、と気付きました。」
――――― 帰国してスランプは抜けられましたか?
「抜け出せませんでした。
23歳でアフリカに行って、実際にフォトグラファーになったのは29歳のときです。
29歳まではイラストを描いていて、アフリカにつぎ込んでいました。私の中で、アフリカの民族はヒーローに見えていたんです。
そこで、自分が見えているヒーロー像を演出してみようと思い写真を撮り始めました。
それがSNSで拡散され、『クレイジージャーニー』というTV番組からオファーを受け、エチオピアにロケに行きました。
番組のテロップに『フォトグラファー』と表記されていたので、『あ、私はフォトグラファーなんだ!』とそこで思いました。」
ここからは、ヨシダ講師の写真と共に、撮影したエピソードを紐解いていきます。
<エチオピア南西部に暮らすスリ族>
――――― エチオピアは、遠いですよね。
「日本からだとエチオピアの首都・アディスアベバまで、16時間くらい。そこから車で、順調にいけば4日間で着きます。
彼らは、その時期に咲いている花をヘッドピースにしたり、土を水に溶いてペイントしたり。
私たちが洋服を選ぶような感覚で自然のものでオシャレを楽しんでいました。」
――――― モデルさんはどうやって選んでいますか?肖像権代を払うから、立候補が多い時もありますよね?
「そうですね、多すぎて選べないこともあります。写真の彼は、木の上でずっとポージングをして待ってくれていました。
自分がこう撮ってほしいというイメージが明確にあるのだと思います。
私が『(カメラの方向に)目線をちょうだい』と言うと、
彼が『何を言っているんだ?このポーズなら目線は外す』と言っていて。
自分をこう見せたいというプロデュース能力に長けている人が多いです。」
――――― 撮影交渉はどのように行いましたか?
「現地ガイド経由で、長老に伝えてもらいます。」
――――― 信頼を得るためにどのようなことを心がけていますか?
「彼らは、私の行動一つ一つをとてもよく見ています。彼らが嫌なことは絶対にしないです。
例えば、私は絶対に日焼け止めを塗りません。
日焼け止めを塗るのは『自分たちみたいな外見になりたくないから』と勘違している民族もいます。
好きと伝えている以上、行動を伴わなければいけないと思います。
同じ時間を過ごし、自分の行動を見てもらうことに時間をかけています。」
また、コミュニケーションの一つとして、石灰と炭のフェイスプリントも楽しんで受け入れている写真も紹介。
<アルジェリアのサハラ砂漠に暮らす遊牧民トゥアレグ族>
――――― これはトゥアレグ族の写真ですね。
「そうです。日差しが強い時間だと、肌が赤くなったり青くなったりして、彼らの黒い肌を忠実に再現できず、
納得のいく撮影ができていませんでした。そこで、朝と日が暮れる前の1時間で撮影するようにしました。
アルジェリアの時は、朝6時50分からスタートしましたね。朝3時に起きて準備しました。
ターバンを巻ける人が少なくて、着替えには3時間以上かかりました。
私が、写真で表現したいと思っていることは二つあって、
『人種や民族関係なく、その人が最高に格好良く見える表情』と、『黒人の黒い肌を美しく忠実に再現する』ということ
黒い肌と言っても、ミルクチョコレートのような色もあれば、キャラメルのようなカラーもあるし、炭のようにマットな黒もあります。
それぞれの美しさを表現したいですね。」
<ワンポイント!技術アドバイス>
撮影時は、ローデータで逆光で撮影。Lightroomで編集する際、カーソルはどちらかに振り切る、というのが技術的なポイントになるそう!
――――― ポージングのこだわりは?
「漫画の世界に出てくるような、ヒーローっぽい演出を意識しています。
私がアフリカ人に一目ぼれした時に、親に共感してもらえなかったことがあって。
自分の友達を貶されているような気がして、とても悔しかったんです。
エイズや貧困、内戦といったアフリカのステレオタイプ的な捉え方は、先達のジャーナリストやカメラマンさんが報道しているし十分だと思っています。
物事にはマイナスとポジティブ両方あると思うので、私なりのフィルターでプラスの部分、格好いい部分を撮影していきたいと思っています。」
――――― モデルとのコミュニケーションのコツは?
「彼らはプロのモデルさんではないので、思ったように撮影が進まないことが多いです。
スムーズに撮影するためには、モデルたちの団結力と、仕切ってくれるリーダーが必要。
どんな人が一番自分の理解者になってくれるか、リーダー選びは特に慎重にしています。」
――――― 見極めのコツは?
「撮影していない時に、彼らのプライベートを遠目からのぞいてみます。
話を盛り上げている人や面倒見の良い人などにお願いしています。」
――――― リーダーとのコミュニケーションは?
「リーダーに限らず、撮影写真の趣旨はきちんと説明します。
格好良いを演出にするために、誇りを持ってカメラの前に立ってほしいと説明しています。
5~10分も同じポーズを続けるのは大変です。
でも、リーダーに選んだ人には自覚が芽生えているので、その人が他の人に指示してくれたりするんですよ。」
リーダー役を引き受けてくれたアフロヘアの青年についても写真で紹介。
<セルフプロデュースのポイントは?>
――――― セルフプロデュースする上で、心がけていることは何ですか?
「まずは、自分の強み、人から求められていること、自分が見せたいことを考えること。
正直、写真は独学ですし、スキルはないです。でも、どうしてフォトグラファーを仕事にできたかと考えると、私のした演出が珍しかったから。
あとは、少数民族をカラフルに表現した写真は他にはなかったため、評価をしてもらいました。
なので、被写体が変わっても、誰が見ても『ヨシダナギの作品だ』と分かる世界観を作ること。ここは、ブレてはいけないと思っています。」
他に、アイヌ民族、山形県「ものつくり」プロモーションの作品をお披露目。
「冷静に人の作品を分析するのも近道です。評価されることは魅力があるってこと。なぜ、その作品が評価されているのか?
その要素を取り入れ、自分に足りないものを補っていけばいいと思う。嫌いな作品を突き放すのではなく、冷静に見つめてみてください。」
――――― 他にインスピレーションを受けたものはありますか?
「作品を作るうえで、ポージングはとても大事です。漫画を参考にしたりしています。」
――――― 3rd作品集の被写体はドラァグクィーンですね。撮ろうと思った理由は?
「他のモチーフを撮ることは考えていなかったんです。でも、周りの方から少数民族以外の作品を見てみたいとオファーもいただいて。
私は、自分が興味あるもの以外だと妥協した写真になっちゃうと思って断り続けていました。
でも、新しいチャレンジをしないと少数民族にも会いに行けなくなってしまうと気づき、
新しい作品を生み出さなくてはいけないと考えるようになりました。
ドラァグクイーンが出ていた映画を思い出し、そこから被写体として興味を持ちました。」
ニューヨーク・パリでの撮影風景を切り取ったプロモーションムービーを公開。
表題の「-No Light, No Queen-」は、撮影時に偶然ライトが消え
「ライトがなければ、ドラァググクィーンではないわ」と彼らが放った言葉に由来しているそう。
終盤には、学生からこんな質問も飛び出しました!
「マネージャーさんを雇った理由を教えてください。」
ヨシダ講師「私は喋ることが得意ではないですが、。彼は、人と話すこと、金銭面の調整が得意なので雇いました。」
マネージャーさん「10年前から友人で。仕事の依頼をさばいてほしいと声を掛けてくれたので受けました。
企業さん向けのプレゼンや、メディア対応もしています。アーティストと本音で付き合ってマネージメントするのが大事ですね。」
終わりに、ヨシダ講師はこんなメッセージを贈りました。
「本日は、話に付き合ってくださりありがとうございます。ものづくりには、正解も不正解もないと思います。
主観でもいいし客観でもいい。作りたいものを思いきり自由に作っていってください。皆さんの作品を見られる日をとても楽しみにしています!」
自分が興味を持ったもののポジティブな面を独自の視点で表現するヨシダ講師。
フォトグラファー志望の学生だけでなく、ファッション業界、ヘアメイク業界を目指す人にとっても示唆に富んだ時間となりました!