【特別授業】資生堂チーフヘアメイクアップディレクター計良宏文(けらひろふみ)講師による講演会を実施!「美を拡張する」発想法とは?
バンタンデザイン研究所にて、資生堂チーフヘアメイクアップディレクター計良宏文(けらひろふみ)講師による講演会が行われました。
計良講師は、2021年に東京2020パラリンピック開会式のヘアメイクを担当。
また、パリコレクションでヘアメイクチーフを多数担当されたり、2025年9月までヘアメイクアップアカデミー「SABFA(サブファ)」の校長を務められておりました。また、「EXPO2025大阪・関西万博」にて、開会式&オープニングイベント ヘアメイク総合ディレクションを行うなど、日本を代表するヘアメイクアップアーティストです。
講演では、これまでに手がけた「WORKS」紹介、美についての発想法、デモンストレーション、質問コーナーの流れで進行しました。講演の様子をレポートします。
【1. 「私たちは、美を拡張する」】
資生堂ビューティークリエイションセンターのステートメント(思想)をもとに、計良講師は“美の可能性を広げる”という考え方について紹介しました。
計良講師が大切にする「7か条」
• 夢を見ることができれば実現できる
• 好きなことは突き詰めろ
• 美しいものに触れて感性を研ぎ澄ませろ
• 美を疑え
• 無いものを在るに
• 簡単に限界を決めるな
• 選ばれる人になれ
【2. 美の捉え方と表現のプロセス】
計良講師「ヘアメイクを考えるうえで、クリエイションの原点となる思考を紹介します。
今の自分らしさを活かした美しさ『日常美』と、創り出された象徴的な美しさ『創造美』という2つの概念があります。
『日常美』に紐づくキーワードとは、時代が求める美の探求、機能的・等身大な、個性を生かす、デイリーなメイクアップをイメージしても良いでしょう。
これに対して、『創造美』は、より独創的・精神的な美しさです。次の時代の美の模索、先行性があり、新発見があり、ときに今までにない挑戦が求められたり、感覚的であったりするかもしれません。
この相反する2つの美を同時に持つ感覚こそが、『一歩先行く新しさ』を創り出します」
【3. 「具体的なコンセプト」を持つこと】
「具体的なコンセプトを持つことで、テーマを明確にし、伝わりやすくなります」
また、コンセプトを考える際は、擬人化・抽象化・再構築化など“とらえ直し”をすることで「一歩先行く新しさ」独創性が生まれること、さらに「ガーリー」「ドーリー」など語感の微妙な差を感じ取り、解釈することの重要性を解説しました。
自分のイマジネーションを具体的な「クリエイション」に落とし込む過程では、「女性像」、「モチーフ」、「素材」といった要素を明確にしていくことや、民族・文化・時代的背景など、幅広い知識があることでより表現できるクリエイションが広がると説きます。
【4. 「美は多面的である」】
• 美はひとつではない
• 美は儚い
• 美は不完全
• 美は装い
• 美は心を揺さぶる
計良講師「時間をかけてその一瞬を作りますが、美はまるで、花火のように儚いです。美は不完全です。曖昧だからこそ生まれる美も、またあります。そして、自分だけの独自の好きを大切にしてください。『これ以上は美しくない』という線引きを持つことも重要です。美は単一の正解ではなく、多様な状態として存在します」
【5. 新しい美を生むための姿勢『NO LIMIT, YOUR LIFE』】
• 無理難題に応える
• 領域を拡張する
計良講師「これまでのキャリアで『髪の毛で縄文土器を表現』するなど、一見不可能にも思える依頼にも向き合ってきました。未知の領域に踏み出し、問題解決をすることで、新たな領域へと導いてくれます。そうして、領域を拡張することができます。無理難題に応えることで、引き出しが増え活動フィールドが広がっていきます。個人的には『NO LIMIT, YOUR LIFE』という言葉を大切にしています」
【6. デモンストレーション】
続いて「Paris Haute Couture 2025-26 A/W」で採用されたヘアメイクアップをデモンストレーション。
コレクションで披露された「陶器のアクセサリー」と同調するメタリックな質感を表現すべく、液体金属のようなペイントを施しました。
さらに、もう1パターンのヘアアレンジも披露。
【7. 在校生からの質問】
終盤は、在校生からの質問に答えます。
――この業界を選んだきっかけ、そして就職先に資生堂を選ばれた理由を教えてください。
「美容師の姉の影響で、美容に興味を持ったのが最初ですね。もともとは美容師になろうと思って美容学校に入ったんですけど、そこでヘアメイクアップアーティストという仕事や、パリコレの現場を知って、選択肢が一気に広がりました。マサ大竹さんの仕事を見て、“自分もこんな人たちと一緒に仕事がしたい”と思ったことが大きかったですね。資生堂を選んだのは、フリーランスよりもチームでそれぞれの力を発揮できる環境が好きだったから。人とのつながりの中で仕事をするのが自分には合っていると思いました」
――お仕事で、やりがいを感じる瞬間は?
「喜んでもらえたときです。ヘアメイクをしていく途中で、お客さまの表情がどんどん明るくなっていく瞬間がすごくうれしいです。単にきれいにするだけではなく、背中を押すような存在でありたいと思っています。ファッションショーのときも、“いってらっしゃい”という気持ちを込めてメイクしています」
――頭の中に浮かんだイメージを形にするために意識していることはありますか?
「思い描いたものを形にするのは本当に難しいんですよ。だから、まずは言葉にして整理するようにしています。言葉にすることで、自分の中のイメージが見えてきます。そして、必要となるのは“技術”です。基礎的な技術を持って初めてスタートラインに立てる世界。そこからやっと自分の世界を広げていけると思っています」とコメント。
業界をリードするトップクリエイターの思考法・技術を間近で見ることができ、プロとしての姿勢や、美を表現する覚悟を学ぶ貴重な機会となりました。
【PROFILE】
チーフ ヘアメイクアップ ディレクター/株式会社資生堂 ビューティークリエイションセンター センター長
1971年、新潟県生まれ。資生堂美容学校(現:資生堂美容技術専門学校)を卒業後、1992年に資生堂に入社。2020年7月にヘアメイクアップアカデミー SABFAの8代目校長に就任(2025年9月30日まで)。広告ビジュアル、雑誌、パリ、ニューヨーク、東京コレクションのヘアメイクチーフを歴任。
ICDジャパン理事、日本ヘアデザイン協会(NHDK)ニューヘアモード創作設定委員長、一般社団法人ジャパン・ビューティーメソッド協会 上級認定講師、資生堂学園テクニカルディレクター。著書に、『KERAREATION』、『Master's Creation ~作品づくりと構成力~』(いずれも女性モード社)がある。
2009年 JHA(Japan Hairdressing Awards)グランプリ受賞
2016年 写真展「Flowers~わたしを咲かせなさい」@渋谷ヒカリエ
2019年 個展「May I Start? 計良宏文の越境するメイク」展@埼玉県立近代美術館
2024年 さどの島銀河芸術祭 写真展「かたちびと」