25.09.12 25.09.11 更新

バンタンデザイン研究所卒業生・「ANREALAGE」デザイナー森永邦彦さんへインタビュー。東京都主催若手デザイナーに向けて講義。【バンタンデザイン研究所】

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東京都は、次世代デザイナーを対象としたパリでファッションショーを行うプロジェクトを始動しました。
ファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(NFDT)」、「Sustainable Fashion Design Award(SFDA)」を実施し、2023年度受賞者のうち 13組14名が、2026年1月にフランス・パリでファッションショーを行います。
東京都主催の育成プログラムにおいて、バンタンデザイン研究所卒業生・「ANREALAGE」代表取締役社長・デザイナーの森永邦彦さんが講師を務めました。
講義のダイジェストと、バンタンデザイン研究所在校生へのメッセージをお届けします。

【1. 「ANREALAGE」コレクションハイライト】
「ANREALAGE」(アンリアレイジ)は“A REAL”(日常)、「UNREAL」(非日常)、「AGE」(時代)を組み合わせた造語。「神は細部に宿る」という信念のもと、細部へのこだわり、テクノロジーとファッションの融合を特長としています。パリ・ファッションウィーク公式スケジュールに 11 年・23 シーズン連続で参加しています。

• 2013-14年 AW:"COLOR"
太陽光によって色が変化する服を発表。ショー全体を色を脱いだり着たりする服で構成し、ファッションとテクノロジーを融合させるターニングポイントとなった。

• 2014年:パリコレ進出
パリでの発表を開始。以降、世界の舞台で継続的にコレクションを行う。
• 2018-19年 AW:"A LIGHT UN LIGHT"
「光の中に潜む闇、そして闇の中に射す光」というテーマを掲げ、光と影の相反する関係を表現。
• 2021-22年 AW:"GROUND"
デジタルで、天地逆転したランウェイを発表。モデルが天井を歩くという常識を覆す演出。
• 2022年:20th ANNIVERSARY COLLECTION "A & Z"
「20年一貫して取り組んできたテーマは『日常と非日常』。非日常を日常に変えたいと祈ること、そして、日常を非日常に変えたいと願うこと。祈り、願うような服を届けられたら」という想いから、過去4シーズンのデジタルコレクションをフィジカルなショーで発表。ブランドの原点であるパッチワーク技法を活かしたガーメントには、1着あたり2000〜3000ピースの異なる端切れを用いた。A(原点)と、Z(未来)を象徴的に表現。
【2. ファッションショーの本質とは何か?】
人の心を動かし、感情をえぐる
森永さん「ショーの最中に、観る人の感情をえぐるようなことができたらいいと思っています。人の心を動かすことを念頭にショーを作ってきました。400~500人のゲストに向けて20分ほどのショーを行いますが、そのうちの一人が深く感動すれば、10年、20年と記憶に残ります。それくらいの力がファッションショーにはあります。ひとつのショー、ひとつのルックは何かを変えられる機会です」と強調。
モデルの歩き方、ヘア&メイク、音楽、照明などから成る「総合芸術」
服、モデル、音楽、ヘア&メイクなど多くの要素が組み合わさってファッションショーは成立します。
森永さん「どんなモデルを選び、ヘア&メイクをし、どのような音楽を使うか?服を中心にしながら、『総合芸術』として広げていかないといけません。
さまざまなプロフェッショナルと組んでファッションショーを完成させるため、あらゆる局面で、ショーのテーマを伝えることが求められます。ショーを言語化していくことが、大切です」
テーマ設定をする時点で、見せ方を考える
森永さんの場合、コレクションテーマは「誰もが理解できる短い言葉」を選んでおり、そこから想像を裏切る服を生み出すのがセオリー。テーマを決めた時点で、ショーの見せ方の方向性も考えることが重要だと伝えました。
ブランドの世界観を最大限に拡張する
森永さん「服単体では『ANREALAGE』の世界観を出すことができません。ショーがあることで輝くことがあります。どのように見せるかのアイデア、クリエイションが重なってブランディングされ、差別化できる要素になるのではないでしょうか。ファッションショーは、なんでもやっていい場です。いまの服を何十倍にも拡張して見られます。『ANREALAGE』は未来的な挑戦を行う一方で、『anrealage homme』では、服を作り始めたときの原風景、幼い頃の記憶といった感情的な部分を大切にしています。ショーではブランドの世界観を最大限に拡張し、観客に届けています」

【3. 森永邦彦さんからバンタンデザイン研究所在校生へメッセージ】

―― バンタンデザイン研究所で印象に残っている授業、イベントなどありましたらお聞かせください。
「パターンの授業、縫製など基礎をしっかりと教えてもらいました。なぜ、こういう線を引くのか?をロジカルに教えてくれました。感覚で作るのではなくて、論理的に服の作り方を学べたことが大きかったです」
―― ファッションショーもされていましたか?
「していましたし、基本的な考え方は同じだと思います。前半は白い服、バックヤードで黒の浴槽を作って染色液を入れてその場で染めて真っ黒でボタボタした状態で出しました。ずっと好きだったんでしょうね」
―― バンタンデザイン研究所時代は、ご自身にとってどのような時間でしたか
「時間はぜんぜんなかったんですけれど、経験がない分、予想外のことができました。技術はありませんでしたが、アイデアは豊富にありました」
―― 学生時代の自分に、メッセージを伝えるなら?
「僕らはずっと進化しているようでいて、ずっと変わっていない部分もあります。いまやっていることを継続していけばそれが力になり、誰かにつながっていくということを伝えたいです」
―― 森永さんが、若手デザイナーを支援される理由は?
「ブランドを始めて22年になりました。東京10年、パリ10年で培った知見、失敗も成功も含めてシェアできればと思います。何も指針がなく、若い人たちがファッションを諦めていく状態をなくせたらと思います」
―― 日本の若手ファッションデザイナーにどのようなことを期待していますか。
「ファッションは言語を超えられます。なので、世界を目指してほしいですね。自分の作ったものが世界につながっていることを実感してほしいです。広い世界ということもそうですし、誰かひとりの日常を変えられる一着を作ることもできます。
調べたら、いろいろな答えがわかってしまう時代なので、信じて取り組むことが難しいのかもしれません。『パリってこういうものだよね』とわかった気で満足してしまうと、パリコレを目指すデザイナーがいなくなってしまいます。個人的には、誰にでも可能性があると思っています」
―― ご自身のキャリアにおいて、「ターニングポイント」となったお仕事について教えてください。
「洋服にテクノロジーを取り入れた2013-14年秋冬コレクション『COLOR』です。洋服の色合いが、太陽の状況や天候によって完成する洋服で、色の概念を持っていません」
―― 「Next Fashion Designer of Tokyo 2025」に、バンタンデザイン研究所在校生が入選しています。コンテストへの応募を考えているバンタンデザイン研究所生へメッセージをお願いします!
「応募しない理由はないと思います。何か生み出さないと、なぜファッションを学び始めたのかという気持ちがなくなってしまいます。コンテストの審査員には、デザイナーやバイヤー、ジャーナリストもいます。ブランドを作るためのプロフェッショナルと繋がり意見をもらうこと、応募する人たちとも繋がりができることがチャンスであり、今後の財産になると思います」

【PROFILE】
1980年、東京都国立市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。大学在学中にバンタンデザイン研究所に通い服づくりをはじめる。2003年「アンリアレイジ」として活動を開始。ANREALAGEとは、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代、を意味する。2005年東京タワーを会場に東京コレクションデビュー。東京コレクションで10年活動を続け、2014年よりパリコレクションへ進出。2019年フランスの「LVMH PRIZE」のファイナリストに選出、同年第37回毎日ファッション大賞受賞。2020年伊・FENDIとの協業をミラノコレクションにて発表。2021年ドバイ万博日本館の公式ユニフォームを担当。24年メンズレーベルの「anrealage homme」を始動。2023・25年ビヨンセのワールドツアー衣装をデザイン。。
  (www.anrealage.com)

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